引当金とは?貸倒引当金繰入の違いも解説
山田新 先生
(所属:山田新公認会計士・税理士事務所)
静岡県静岡市生まれ。
公認会計士試験合格後、2005年12月に中央青山監査法人(現PwCあらた有限責任監査法人)に入社。その後、株式会社ディー・エヌ・エー、都内の税理士法人を経て2014年3月に山田新公認会計士・税理士事務所を静岡市に設立、独立開業。
法人個人の申告、相続税申告から会計監査、会計コンサルティングまで幅広くサービスを展開。
貸倒引当金は決算書類などでもよく目にする単語ですが、日常ではあまり使わない勘定科目ですので「聞いたことはあるけどどのようなものかは知らない」という方も多いのではないでしょうか。
もともと貸倒引当金と貸倒引当金繰入の概念は、会計上の利益の考え方から生まれました。
当ページでは貸倒引当金と貸倒引当金繰入にどのような違いがあるのか、実務上どのように仕訳をするのか等をご紹介してまいります。
貸倒引当金と貸倒引当金繰入の違い
貸借対照表や損益計算書には、日常生活で耳にしないような言葉も数多く出てきます。
特に混同しがちなのが貸倒引当金と貸倒引当金繰入の違いです。まずは両者の違いや意味をしっかりと理解しておきましょう。
貸倒引当金とは
貸し倒れとは、計上していた売掛金や受取手形が回収できなくなることを指し、簡単にいうと取引先の倒産・著しい財務状況悪化などが生じた状態です。
回収不能になった時点で貸し倒れ処理をすることも可能ですが、回収不能になった時点で計上すると、その債権が回収不能になった年にだけ大きく損失が出てしまうことになりますので、適正な期間損益計上の観点から見て好ましくありません。
そのため、貸倒引当金を予め計上しておけば、将来の損失に備えることが可能です。
将来貸し倒れる可能性がどの程度あるかを見積もり、引当金を計上することで、起こりうるリスクを期間ごとに合理的に配分することができます。
貸倒引当金の繰入方法
次に、実務上の処理を見ていきましょう。
貸倒引当金を計上する方法には、「洗替法」と「差額補充法」の二つがあります。
「洗替法」と「差額補充法」のどちらで計算しても、当期純利益に与える影響は変わらず、貸借対照表上の貸倒引当金残高も同じになります。
なお、税法上は「洗替法」が原則ですが、条件を満たせば「差額補充法」で計上することが可能です。
洗替法 | 洗替法は前の期末に設定した貸倒引当金を全額、収益として一度戻し入れる方法です。そして、当期末にあらためて貸倒引当金を繰り入れる処理を行います。 |
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差額補充法 | 差額補充法は、当期末に計上する貸倒引当金を計算して、前期末に計上した貸倒引当金との差額分を費用、もしくは収益として計上する方法です。 |
貸倒引当金の勘定科目は『貸倒引当金』として、貸借対照表に計上します。
特殊な勘定科目で、負債と同じ貸方に計上することで資産のマイナスとして扱います。
貸倒引当金繰入とは
貸倒引当金は通常、事業年度末に保有している金銭債権の額に応じて計上されますが、その反対科目として発生するのが貸倒引当金繰入です。
貸倒引当金繰入は、簡単にいうと「決算整理で貸倒引当金を計上して繰り入れるための見積もり費用」のことを指します。
貸倒損失の場合は実際に貸し倒れした金額ですが、貸倒引当金繰入の場合はあくまでも見積もりですので、見積額である貸倒引当金繰入で処理をするのです。
貸倒引当金繰入時の勘定科目は『貸倒引当金繰入(費用)』として処理します。
逆に貸倒引当金を減らす場合のことを貸倒引当金戻入と呼び、勘定科目の『貸倒引当金戻入(収益)』として処理します。
繰り入れたときの仕訳例
借方 | 貸方 |
---|---|
貸倒引当金繰入 100,000 |
貸倒引当金 100,000 |
戻し入れたときの仕訳例
借方 | 貸方 |
---|---|
貸倒引当金 100,000 |
貸倒引当金戻入 100,000 |
貸倒に関する勘定科目
貸し倒れには、貸し倒れとなったタイミングや回収できた場合などさまざまな処理のケースがありますので、貸し倒れに関連する他の勘定科目についても知っておきましょう。
貸し倒れの際に多く使用される勘定科目としては、前述した貸倒引当金や貸倒引当金繰入の他、「貸倒損失」「償却債権取立益」などが挙げられます。
貸倒損失とは、金銭債権を回収できなくなったときに損失を処理するために使う勘定科目です。
例えば、取引先の倒産で売掛金が回収できなくなった場合や関連会社への貸付金が回収できない場合などは、貸倒損失として費用処理します。
また、貸倒損失として処理した債権が回収できた場合、その回収できた金額は償却債権取立益として計上します。
過去の年度で計上した貸倒損失は後から取り消すことができませんが、回収できた債権の額はその債権を回収した期の収益として計上することができます。
売掛金が回収不可となったときの仕訳例
借方 | 貸方 |
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貸倒損失 100,000 |
売掛金 100,000 |
貸倒処理した債権を回収したときの仕訳例
借方 | 貸方 |
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現金預金 100,000 |
償却債権取立益 100,000 |
貸倒引当金はいくらあればよい?
さいごに、実際に貸倒引当金はどのくらい繰り入れておいた方が良いかについてご紹介したいと思います。
一般企業の多くは、売掛債権総額の3~5%を繰り入れておく形を採っています。
例えば、売掛金と受取手形の残高が1,000,000円であった場合、3%であれば30,000円、5%であれば50,000円を計上しておくイメージです。
なお、差額補充法を採用している企業で計上した貸倒引当金を使用しなかった(又は使い切らなかった)場合、足りなくなった分を補充していきます。
期末時の売掛金と受取手形の残高が1,500,000円・既存の貸倒引当金が50,000円・繰入金額を5%で設定した場合、「1,500,000円×5%=75,000円」となりますので、不足分の25,000を充当する恰好です。
ただし、これらはあくまでも例に過ぎず、一つの貸倒が一気に経営不振につながる恐れがありますので、取引先が少ない・売掛先が一つしかない等の場合はもう少し多く積み立てておく必要があるでしょう。
顧問税理士とご相談の上、いくら積み立てておくべきか・しっかりとリスクヘッジできているのか等を検討してみてください。
山田新先生のコメント
記事の通り、貸倒引当金は適正な期間損益計算のために設定するものでして、これによって会社の経営成績を適切に把握することができます。貸倒引当金を設定するうえで注意しなければならない点として、貸倒引当金の設定金額には税務上制約があります。上限を超えて設定した場合には損金として認められませんのでご注意ください。
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