債務整理に関する
基礎知識
債務整理とは、多重債務などに陥り返済が難しい状況に陥った場合に、その救済として借金を減額する若しくは全額免除を受けることができる法的手続きの総称です。
ただし、債務整理には様々な種類があり、それぞれの法的効果は細かい部分で異なってきます。
債務整理を検討しているのであれば、まずは現在のご自身の状況を確認すると共に、どの手続きが適しているのかを知っておくと良いでしょう。
債務整理の種類と法的効果

どうしても借金の返済ができなくなってしまったときの救済措置として定められている債務整理。
一言で債務整理と言っても様々な種類がある上、個人と法人でも手続きの内容は異なり、その法的効果も変わってきます。
万が一の事態に備え、それぞれの内容を整理し、理解しておきましょう。
個人の債務整理

「債務整理」と聞くと、まずは自己破産をイメージする方が多いと思います。
もちろんこれは間違いではありませんが、自己破産はあくまで債務整理の一種であり、他にも多くの方法があります。
まずは個人向けの債務整理の種類について説明してまいりますので、各方法の特徴を確認していきましょう。
任意整理(個人)
任意整理とは、裁判を通さずに消費者金融業者又は銀行と話し合い、今後の返済方法・条件等について調整するという債務整理の一種です。
「金利で膨れ上がった分の債務を減額してもらえる」「月々無理のない範囲で返済できる」といったメリットがありますが、任意整理を行うと信用情報機関(JICC)にその旨が5年間記載されるため、新たな借り入れができなくなります。
また、任意整理によって約定した支払いが滞れば即時に法的措置へ移行し、差し押さえなどで強制的に債権回収が図られる可能性がある点に注意が必要です。
特定調停
簡易裁判所に調停を申し立て、債権者側と返済方法を話し合うという債務整理です。
任意整理(裁判外の和解)とほぼ同じ効果が得られる方法ですが「裁判所を通す」という点で大きく異なります。
簡易裁判所の調停委員が間に入り話し合いを進めてくれるため、一方的に不利になる恐れが無いという点が特定調停の大きなメリットです。
また、申し立ての手続きなどについては、裁判所の書記官が指南してくれるので、弁護士に依頼せずとも自力で行うことも可能です。
費用を安く抑えながら進められるのが、特定調停の魅力の一つと言えるでしょう。
個人再生
こちらも裁判所を通して行う債務整理です。
借金を少なくした上で返済を続けるという点で任意整理・特定調停とも共通していますが、前者とは違い元本を含めた借金総額を大きく減額(おおよそ1/5程度まで)して貰えるという点で大きく異なります。
任意整理と特定調停では利息のみが対象であり、元本を減額するということは原則として行われません。
あまりにも残債の金額が大きく、利息の減額だけでは状況の立て直しが難しい、という方は任意整理よりも個人再生の方が適しています。
自己破産
債務整理と聞いて一番イメージしやすいのが自己破産ではないでしょうか。
こちらは、簡単に言うと借金を全面的に0にすることができる手続きです。
申し立てが認められれば借金は完全に無くなるものの、保有する財産(車や家など)も失った上でその後も長期間ローンが組めなくなるなどのデメリットがあります。
手続きによる効果が大きい分、デメリットも他の方法に比べて大きいので、判断は慎重に行わなければなりません。(生活していく上で不便を感じる恐れも十分に考えられます。)
なお、慰謝料や養育費、各種税金、国民健康保険料、年金保険料、反則金や罰金などは自己破産をしても免責されません(非免責債権)のでご注意ください。
また、借金理由が免責不許可事由に該当する場合、自己破産は認められない場合があります。
- ギャンブル全般
- 換金行為(クレジットカード現金化など)
- 名義貸し(他人のためにクレジットカードを作り、勝手に使われた)
- 株や先物取引
- 詐欺的な借入(債権者を騙すような形で借入している)
- 財産の不当な処分や隠匿
これらに該当することが借金の主な原因であった場合、自己破産できない可能性が高いでしょう。
法人の債務整理

法人(会社)の債務整理は、個人の債務整理とは手続きや種類がやや異なりますので、併せて紹介していきたいと思います。
なお、会社でお金を借りる際は代表者が保証人となる場合が多いため、法人の債務整理と個人の債務整理を同時に行うのが一般的です。
任意整理(法人)
個人の任意整理と同じく、裁判所を通さないで債権者側と今後の返済や返済額について交渉する方法です。
- 公表する必要が無いため内々に進められる
- 他の方法に比べて迅速性に優れている
- 今後も変わらず事業を続けられる
といったメリットがこの方法にはあります。
当事者間のみでの交渉に不安がある場合には、第三者機関に間に入ってもらう形(裁判外紛争解決手続等)で公平性・透明性を担保することが可能です。
民事再生
簡単に言うと個人再生の会社バージョンです。
裁判所が選任した監督委員による監督のもとで、予め提出した返済計画書に沿って返済を続けていく形となる債務整理方法で、個人再生と同様に債務の一部は減額免除となります。
経営状態は悪化しているが、まだ立て直しの余地がある場合には、この方法が採用される場合が多いでしょう。
債務の一部免除(原則利息部分)となる対象は、消費者金融や銀行から借りたお金だけではなく、取引先に支払うべき債務も含まれます。
会社更生
会社更生法に基づき、会社の再建を図る方法です。
裁判所が選任した更生管財人の主導のもと、債権者・取引先等を含めて再建計画を作成し、文字通り会社の更生を目指します。
株式会社だけが行える債務整理で、従来の株式は価値が無くなり、新たに出資してくれる人や企業(スポンサー)が新株主となります。
会社の立て直しを目的とする点で民事再生と共通していますが、民事再生では経営陣はそのまま続投することができるのに対し、会社更生では経営権及び管財処分権がすべて管財人へと委譲されるという点(現経営陣の退任は不可避)で大きく異なります。
返済に必要な金員を出資してくれる人や企業が必要になりますので、法人における債務整理の中でも特に敷居が高い方法と言えるでしょう。
破産手続(法人)
会社の全ての財産を現金化し、債務者に割り当てる(清算)手続きを破産手続と言います。
同手続きを経ることで債務は無くなりますが会社そのものも消滅します。
- 債務超過に陥り債務が履行できなくなってしまった
- 民事再生や会社更生も望めない(希望しない)
といった場合に行われる債務整理です。
なお、一般的に自社で申し立てる破産を「自己破産」、手形の不渡り等によって金融機関との取引が強制的に停止してしまった場合を「倒産」と呼びます。
特別清算
特別清算とは、解散する会社が債務超過に陥っている場合に、裁判所の命令によって開始される清算手続きのことをいいます。
一般的な清算手続とは異なり裁判所の監督のもとで進められ、財産状況の報告を命じる・必要な調査を命じるといった権限が与えられます。
会社の意向に拘わらず進められる手続になりますので、一般的には利用されない特殊な債務整理と言えるでしょう。
債務整理の流れと費用

債務整理には様々な種類があることがわかりましたが、実際に手続きを進める際の流れやおおまかな費用についても理解しておきましょう。
中には自分自身の手だけで進められる手続きもありますが、基本的には弁護士か司法書士に依頼することとなります。
そして、弁護士と司法書士では報酬体系が異なるため、どちらを選ぶかで費用も変わってきます。
もっとも事例の多い任意整理を例に、それぞれの違いについても解説します。
債務整理の流れ
債務整理(任意整理)は以下の流れで進められます。
必要書類を用意しておくと手続きがよりスムーズに進みますので、予め確認しておきましょう。
まずは弁護士又は司法書士への相談です。
どのくらい債務があるのかを受任者(弁護士・司法書士)に把握してもらう必要があるので、状況が分かる資料をできる限り用意しておきましょう。
第三者に何かを依頼することを法律用語で「委任」といい、依頼を受けたことを「受任」といいます。
受任者(弁護士や司法書士)が、債権者(銀行消費者金融など)に受任したことを知らせるために、受任通知という書類を送ります。
債務整理を依頼すると債権者は債務者に対して直接返済を求めることができず、必ず受任者を通さねばならなくなりますので、金融機関から連日催促の連絡が入っているという方は精神的にグッと楽になるでしょう。
相談の段階で債務状況は確認をしますが、その金額が必ずしも合っているとは限りません。
そのため、受任者は受任通知の送付と同時に債権者に対して「開示請求」を行います。
開示された資料を基に、債務金額を確定させます。
- いくら免責可能なのか
- いくら過払い金が発生するのか
といったことを確認します。
その上で債権者に対して和解案の提案を行います。
今後の支払方法や金額について両者の合意が得られたら、最終的に「和解契約」が締結されます。
なお、「和解契約に違反した場合は強制執行(財産の差し押さえなど)を認める」という条件が付くことがほとんどですので、和解後の支払い遅延だけは絶対に避けなければなりません。
和解契約を締結したら、一連の手続きは完了です。
依頼時に約束した金額を弁護士又は司法書士に支払い、和解契約書の写しを受け取ります。
弁護士に依頼した場合
弁護士に依頼した場合、まず相談料として5千円から1万円程度かかり、着手金として5万円程度、解決料として免責された額の10~25%を報酬として別途支払うこととなります。
例えば、100万円の借金の内、債務整理によって50万円の免除を受けた場合、報酬が10%と仮定すると、
「(相談料5,000円)+(着手金50,000円)+(報酬50,000円)」
の計10万5千円を支払う、といった具合です。
もちろん、債務の額や状況(すでに訴訟に発展している等)によって変動するため、詳しくは弁護士事務所に直接確認する必要があります。
司法書士に依頼した場合
弁護士と司法書士の大きな違いは、以下の点です。
弁護士 | 金額に関係なく全ての案件について相談・訴訟・交渉といった業務を行うことができ、あらゆるケースにも対応ができる。 |
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司法書士 | 簡易裁判所での代理権しか持たず、金額が140万円以下の案件にしか対応できない。(ただし、依頼者が多重債務の場合、1社あたりの金額が140万円を超えてなければ対応可能) |
こう見ると、弁護士一択に思えそうですが、決してそのようなことはありません。
まず、司法書士に依頼する場合には、「相談料」がかかりません。
基本的な報酬も弁護士よりは控えめで、着手金を無料に設定している事務所もあります。
また、成功報酬に関しても免責金額に応じた%ではなく、「1社あたり3万円」前後の固定です。
債務の金額や状況次第では弁護士以外の選択肢がない場合もありますが、コスト面で言えば司法書士の方が安く済むことの方が多いでしょう。
債務整理のメリットとデメリット

債務整理をすることによるメリットやデメリットについては、ここまでの話でもおおよそ把握できているかと思いますが、あらためて整理しておきましょう。
ご自身の現在の状況と、債務整理をすることで得られるメリットや失うものなどを検討し、手続きに進むかを総合的に判断してください。
取立てがなくなる
債務整理によって借金が減額、または全額免除となるのは債務者にとって大きなメリットですが、手続きに入ることにより取立てがなくなるのも大きいです。
債務整理を弁護士や司法書士に依頼した場合、まず「受任通知」を債権者側に送りますが、この受任通知をもって債権者は債務者に対して直接の取立てが出来なくなり、以降の請求や交渉は受任者(弁護士や司法書士)を通さなければならなくなります。
これは貸金業法に於いて以下のとおり規制がなされているためです。
債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。
引用元:総務省法令検索
つまり、債務整理を委任すると同時に債権者からの取立てが止み、平穏な日常を取り戻すことができるのです。
金利が発生しなくなる
債務整理を行った場合、任意債務や個人再生であれば「一部」自己破産であれば「全額」が免除されます。この「一部」とは、主に金利の部分を指しています。
債務整理に伴い新たな金利の発生を抑えられ、特に長期的に借り入れを行っていた場合には大きな減額を期待できます。
また、貸金業法が改正された2010年以前より取引があった場合には、グレーゾーンな違法金利(いわゆる「過払い金」)が発生している可能性があります。
これも弁護士など専門家に依頼することで、返還請求をすることが可能です。
信用情報への記載
次にデメリットについてですが、債務整理を行うと信用情報にその事実が記載されてしまう点が挙げられます。
債務整理が信用情報に記録される期間
CIC | JICC | KSC | |
---|---|---|---|
債務整理 | 5年 | 5年 | 5年 |
自己破産 | 7年 | 5年 | 10年 |
自己破産の場合のみ、掲載期間が他よりも長いので特に注意が必要です。
信用情報に記載されている期間は新たな借り入れはできませんし、車や家をローンで購入することもできません。
もっと身近なところで言えば、スマートフォンの分割払い(割賦払い)での購入も難しくなってしまいます。
財産を処分される
すべての債務整理に当てはまるわけではありませんが、少なくとも自己破産をした場合には最低限認められるもの以外の財産は失うこととなります。
ただし、以下の財産は手放さなくても良い(自由財産)とされています。
- 99万円以下の貯金
- 法律上、差し押さえが禁止されている財産(家財道具など)
- 破産開始後に取得した財産
この他、破産管財人が手元に残すことを認めるものについては、引き続き自身の財産として所有することが許されます。
財産を失いたくないからといって、隠すようなことは当然ながら絶対にしてはいけません。
財産隠しが発覚すると破産そのものが認められなくなるばかりか、最悪の場合「詐欺破産罪」という罪に問われる可能性があります。
債務整理に関するまとめ

借金の返済に行き詰まった人の救済措置として用意されている債務整理という制度ですが、誰もが簡単にできてしまってはあまりにも債権者に不利となってしまいます。
減額や免除といったメリットがある代わりに、財産の喪失やその後の借入が一定期間できなくなるなど、デメリットもしっかりあるので手続きを行うかは慎重に判断する必要があります。
また、債務整理にも様々な種類があるので、弁護士や司法書士といった専門家とよく相談してから適した方法を選ぶようにしましょう。