未払金と未払費用
今回は意外と知らない「未払金と未払費用の違い」をテーマに、両者の違いや使い方、税務上の取り扱い等をご紹介してまいります。
「勘定科目や会計用語を知りたい」という方のご参考になれば幸いです。
未払金と未払費用の違い
未払金と未払費用はどちらも「未払い」を計上する勘定科目であり、ついつい混同しがちなのですが、企業会計原則によると両者には以下の通り明確な違いがあります。
未払金 | 非継続的な役務提供に対する未払分 役務提供が完了し債務が確定している費用 |
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未払費用 | 継続的な役務提供契約に基づく役務提供に対する未払分 役務提供が継続している費用 |
未払費用は「一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、すでに提供された役務に対して、未だにその対価の支払いが終わらないもの」と定義されておりますので、発生した債務が「継続的か非継続的か」によってどちらを使うかを判断します。
さらに、ガイドラインによると『このような役務に対する対価は、時間の経過に伴い、すでに当期の費用として発生しているものであるから、これを当期の損益計算に計上するとともに貸借対照表の負債の部に計上しなければならない』との記載もありますので、未払金と未払費用はいずれも「負債の部」に計上する必要があります。
未払金と未払費用の具体例
前述した通り、未払費用が継続した取引を対象にするのに対し、未払金は主に単発の取引(役務提供が継続していないかつ完了しているもの)で使われる勘定科目です。
具体的には、固定資産や備品の購入代金、仲介手数料、消耗品費の支払い等は単発で終わる取引となりますので、未払金として計上します。
また、事務用品・消耗品、車や機械の修理費用も非継続的な役務提供にあたるため、未払金で処理するのが一般的です。
一方で、まだ役務の提供が途中経過にあるものは未払費用として処理します。
例えば、建物の賃貸借契約や水道・電気契約等は継続的な役務提供にあたりますので、賃料・水道光熱費は未払費用での処理が正しいと言えます。
なお、未払費用は未払金とは異なり「期をまたぐ可能性」があるという点に注意が必要です。(未払金は該当する期の費用として処理するため)
買掛金との違いについて
未払金・未払費用と買掛金は共に「負債」という点で共通していますが、会計上の意義や目的は大きく異なります。
買掛金とは、簡単に言うと「仕入」によって生じた債務を表す勘定科目です。
例えば、会社で「パソコン」を購入した場合、当該パソコンを第三者に商品として販売するのであれば買掛金、自社で使用するのであれば未払金として処理します。
簿記では主たる営業活動とそれ以外の活動を区分して記帳しますので、同じ後から支払う義務をあらわす負債の勘定科目であっても買掛金と未払金を区別して処理する必要があります。
なお、共に負債の部に記載がなされますが、買掛金は言い換えれば仕入に要した金額であり、今後売上を立てるのに必要な支出です。
そのため、負債の部の科目ではありますが、銀行や消費者金融から融資を受ける際の審査では大きな問題とはなりません。
実際の仕訳例
正しく会計を処理するためにも未払金と未払費用は区分して仕訳しなければなりません。
未払金と未払費用の仕訳例をまとめましたので是非ご参考ください。
未払金の仕訳
未払金は消耗品や資産となる備品、建物等を購入した際に使用します。
負債なので、増加した場合は貸方、減少した場合は借方に記帳しましょう。
「営業用車両1,000,000円を購入し、代金を翌月に支払う(未払金の計上)」という取引を実施した場合、以下のように仕訳をします。
未払金を計上した際の仕訳処理(単位:千円)
借方 | 貸方 |
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車両運搬具 1,000 |
未払金 1,000 |
未払金を支払った際の仕訳処理(単位:千円)
借方 | 貸方 |
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未払金 1,000 |
現金預金 1,000 |
未払金のうち一部だけを支払った場合は、支払った金額だけを記載してください。(例えば50万円だけを支払った場合は借方に未払金50万円、貸方に現金預金50万円と記載)
未払金を支払うと現金預金や小切手などの資産が減少するため、支払方法に応じた勘定科目及び金額を貸方に記載します。
未払費用の仕訳
未払費用は債務が確定していない未払い分を計上する経過勘定科目です。
そのため実務上では、発生している費用に対して未払費用がいくらあるのか計算する必要があります。
例えば4/16~5/15までの水道光熱費が10,000円で6月に引き落とされる場合、4月分の水道光熱費は以下のように計上します。
未払費用を計上した際の仕訳処理
借方 | 貸方 |
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水道光熱費 5,000 |
未払費用 5,000 |
※4/16~4/30のため10,000円×15日/30日=5,000円となる
未払費用を支払った際の仕訳処理
借方 | 貸方 |
---|---|
未払費用 5,000 |
現金預金 5,000 |
なお、未払費用は給料や社会保険料の会社負担分、法定福利費等を計上する場合に使われることもあります。
未払金と未払費用を区別する理由
繰り返しお伝えしてきた通り、未払金と未払費用は似て非なるものです。
しかしながら、実務においてはどちらも「債務」であり、明確に区別する必要があるのかと疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げますと、両者をはっきりと使い分けなければならないという法的根拠はありません。
さらに言うと、実は勘定科目は法律で明確な基準が定められている訳ではなく、企業が自由に設定することができますので、「未払金」「未払費用」という勘定科目を使う必要すらありません。
なお、個人事業主の場合は毎年税務署に「所得税の確定申告書」「青色申告決算報告書」などを提出しますが、決算報告書には「未払費用」という勘定科目はなく、あらかじめプリントされているのは「未払金」のみです。
つまり、別々に処理していた場合でも確定申告時は未払金でまとめることになります。
これは、所得税の算定に必要なのは所得金額(収入から必要経費を差し引いた金額)であるためです。
上記の理由から、個人事業主であれば未払費用と未払金をまとめても問題ないと言えます。
区別した方がメリットは大きい
未払金と未払費用は個人事業主であれば厳密に区別する必要はありませんが、未払金と未払費用は区別することで、経常的に発生する費用の期間配分が可能です。(未払金は「1回だけ高額な支出になる」ことが多いため、混ぜてしまうと年ごとの支出がバラバラになってしまいます。)
また、後からどのような理由で負債が増加したかをチェックしやすいですし、決算でもより正確な費用を算出できます。
後から経理上比較検討する場合に区別したほうがわかりやすくなるので、経理上の手間と利便性を考えると分けて処理する形がベターです。
会計上の原則を基本として理解するとともに、状況に応じた会計処理を心がけましょう。