給与ファクタリングとは~事例を弁護士が解説
渡邉祐介 先生
(所属:ワールド法律会計事務所)
千葉県浦安市生まれ。
大学卒業後、システムエンジニアとしてIT企業に勤務。都市銀行、電力会社、自動車メーカー等を顧客とするシステム開発プロジェクトに関わる。
その後、弁護士に転身し、都内法律事務所での勤務を経て、2019年1月にワールド法律会計事務所を開設。
相続、不動産案件、中小企業顧問を中心に、一般民事まで幅広くリーガルサービスを展開。
2020年6月に通知税理士登録。
齋藤健博 先生
(所属:銀座さいとう法律事務所)
2015年慶應義塾大学法科大学院修了後、2015年司法試験合格、2016年虎ノ門法律経済事務所所属、その後2019年銀座さいとう法律事務所開設 弁護士 齋藤健博は、すぐにお会いして丁寧にあなたの話をお聞きします。「不倫」「浮気」「離婚」「男女問題」「セクハラ問題」「債権回収」を中心に、法律業務全般を取り扱っています。
事務所HP:https://ginza-saito.com
新しい資金調達方法として注目を集めるファクタリングですが、違法な営業活動によって刑事事件に発展するケースが相次いでいます。
ここでは、大きくニュースとなった「給与ファクタリング」の事件について、事例を含めてご紹介いたします。
給与ファクタリングの特徴
2020年7月、給与ファクタリングと呼ばれるサービスを提供していたファクタリング会社(SONマネジメント)が摘発されました。
給与ファクタリング(給料ファクタリング)とは、文字通り賃金債権をファクタリング会社に売却し、支給日前にお金を受け取れるサービスです。
一般的なファクタリングでは「ビジネスで生じた売掛債権」を使用するのに対し、給与ファクタリングでは「雇用主に対して有する賃金債権」を使用するという違いがあります。
なぜ、給与ファクタリングがここまで普及したのか。
それには給与ファクタリングには以下のような特徴があったためです。
審査や在籍確認が不要
融資では新規契約の際に所得証明や在籍確認が原則必要となりますので、過去に返済事故を起こしてしまった方、職場に知られたくない方は利用ができないというデメリットがありました。
一方で、給料ファクタリングでは約条通りに支払っていれば職場に連絡が入ることはありませんので、誰にも知られずにお金を手に入れられるというメリットがありました。
また、勤務していることの証明さえできれば利用できたため、審査がほぼ無い・雇用形態がパートやアルバイトであってもOKという点も利用者の支持を得る要因となったと考えます。
そのため、通常の方法ではお金を借りることができない方からの利用が相次ぎ、給与ファクタリングは特定の層から高い需要があったのです。
高額な手数料
一方で、高額な手数料は利用者をさらに苦しめます。
給料ファクタリングの手数料相場は30~40%、比較的手数料が安い業者でも20%以上と、非常に高額な手数料が設定されていました。
仮に給与が25万円だとしたら5~10万円の手数料を支払うことになる訳ですから、トイチやトニといった違法金利が霞んで見えるほどの高額手数料と言えます。
万が一約条通りの払えなかった場合、掲示板に免許証をさらす、勤め先に嫌がらせの電話をする等の行為が容赦なく実施されますので、利用者の足元を見た卑劣な手口と言わざるを得ません。
給与ファクタリングの摘発
金融庁が「給与ファクタリングのスキームは貸金業に該当する」との見解を示した後、裁判所(民事裁判)も同様の見解を示しました。
その後、給与ファクタリングを提供する業者の多くが廃業しましたが、一部の業者は引き続き営業を続けており、遂に2020年7月全国初の摘発へと至ります。
また、2021年には業界最大手との呼び声も高かった「ファクタリング七福神(株式会社ZERUTA)」の役員ら7人が逮捕されています。
以下ではファクタリング七福神の基本情報や手口、逮捕に至った経緯をご紹介してまいりますので、同様の被害に遭わないためにも予め確認しておきましょう。
ファクタリング七福神の基本情報
ファクタリング七福神の基本情報は以下の通りです。
運営会社 | 株式会社ZERUTA |
---|---|
代表者 | 足立 慎吾 |
資本金 | 500万円 |
設立 | 平成30年6月 |
本店所在地 | 東京都新宿区新宿1-34-8近代BLD.15・7F |
七福神は給料ファクタリング業者の中でも老舗と言える存在で、手数料が業界内でも比較的安かったことから多くの人が利用していました。
申し込んだ即日で資金を調達でき、日曜日や祝日にも利用できるなどの「利便性の高さ」を強みにしていたようです。
ファクタリング七福神のホームページは現在閉鎖しており、ファクタリング業からも撤退しています。
民事訴訟も提起
刑事事件に発展する前に、ファクタリング七福神は民事裁判で提訴されています。
原告となったのは2018年の12月から2020年3月にファクタリング七福神に給与債権を売却した男性ら9人です。
ファクタリング七福神は給与債権の買い取りと称して月数万円を貸し付け、法定金利の上限109.5%を超える1409%もの金利を支払わせた背景があり、原告ら9人は計436万5,000円の返還を求めて東京地裁に提訴しました。
七福神側は債権の買い取りであって貸金業ではないと主張しておりましたが、裁判所は判旨で「給与ファクタリングは貸金業に当たる」との見解をしめし、原告の訴えを認める判決を出しています。
その後、2020年6月1日には被害者1000人から七福神は訴訟を提起され、公式ホームページを閉鎖し、債権放棄通知で撤退したとみられています。
現在は七福神の公式Twitterと思われるアカウントのみが残った状態ですが、2020年2月9日のツイートを最後に更新は停止されており、コメントへの返信もありません。
刑事事件へと発展
2020年5月22日、日本弁護士連合会の荒中会長は給料ファクタリングと称するヤミ金融業者が横行している問題について、金融庁や警察庁など関係機関に対し、取り締まりの徹底を求める声明を発表しています。
2020年7月に東京都の業者ら4人を貸金業法違反(無登録営業)の疑いで逮捕し、これが給与ファクタリングで全国初の摘発となりました。
2021年1月16日、遂にファクタリング七福神が摘発されます。
給与ファクタリングを謳い、高金利の貸し付けを行っていたことから、出資法違反の容疑で役員ら計7人が逮捕される事態となりました。
ファクタリング七福神は延べ9万7,000人ほどに約50億円の貸し付けをし、13億円を超える違法な利息を得たと見られています。
2020年に取り締まりが厳しくなった背景には、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で困窮する人を中心に利用者が急増し、法外な利息に苦しむ事案で相談が寄せられていることもあるようです。
給与ファクタリングは貸金に当たる
給与ファクタリング業者は、「借金ではありません」「ブラックでもOK」といった誘い文句で利用者を呼び込んでいました。
ファクタリングと聞くとついつい心理的な抵抗感が薄れてしまいがちですが、結論から申し上げますと給与ファクタリングは貸金サービスに該当するとの判断がなされています。
つまり、違法ではないものの、業として(不特定多数の人に反復継続して行う)場合は貸金業法に基づく許認可が必要であり、金利も法律の範囲内で定めねばなりません。
2022年6月現在、貸金業者登録をしている業者かつ給与ファクタリングサービスを提供している業者は確認できませんでしたので、もしも給与ファクタリングを実施している業者がいれば、同業者はヤミ金業者の可能性が高いでしょう。
法外な手数料(金利)を支払わされる・恫喝や勤務先への連絡などの悪質な取り立てを受ける等のリスクがありますので、絶対に利用してはなりません。
渡邉祐介先生のコメント
一般にファクタリングの仕組み自体は広く活用されている資金調達法ですが、「給与ファクタリング」については、これまで数多くの取立て被害などが問題視されてきていましたが、裁判所により、実質は「貸付け」でヤミ金であるという判断がされ、ついに逮捕者も出ました。利用は控えるようにしましょう。
法的問題点をさらに詳しく
繰り返しお伝えしてきた通り、給与(または給料)ファクタリングとは、労働者が雇用主に対して有する給料請求を利用したファクタリングの総称です。
ファクタリングサービス自体は違法ではありませんが、給与ファクタリングは高額な手数料や営業方法、厳しい取り立てなどが問題視されており、既に違法判断もなされています。
刑事訴追を受けているファクタリング会社もあり、現在では「闇金業者の手口の一つ」という認識が定着しています。
個人を対象にしたサービス
冒頭でもお伝えしましたが、ファクタリングは元々事業資金の調達を目的とした企業向けのサービスであるのに対し、企業は「売掛金」を売却するのに対し、給与ファクタリングでは「給料(賃金債権)」を利用する点で大きく異なります。
取引は利用者とファクタリング会社の間で行われる(所謂2社間方式)ため、利用者に給料を支払う会社に知られることはありません。
勤め先からは通常通り利用者へと給料が支払われ、利用者は支給後にファクタリング会社に利用金額分を引渡します。
給与ファクタリングの手数料相場はなんと20~30%となっており、仮に10万円をファクタリングしたとしたら2~3万円もの手数料を支払う計算です。
そのためファクタリング会社への支払いができなくなり、個人情報をネットに晒される・職場に取立ての電話が入る等のトラブルが後を絶ちませんでした。
給与ファクタリングに関する法律
企業向けのファクタリングと個人向けのファクタリングにはどのような違いがあり、どのような点で違法性を帯びるのでしょうか。
給与ファクタリングに関連する法律として知っておきたいのが、労働基準法と貸金業法の2つです。
労働基準法では雇用者は労働者に対して給料を直接支払わなければならない(直接払いの原則)と定められています。
給与ファクタリングは原則2社間方式を採っているため、給与は労働者に直接支払われるものの、ファクタリング会社は直接雇用者に対して回収を図ることができず、労働者に対して請求をする他ありません。
つまり、労働者から第三者への権利移転は認められず給与ファクタリングは実質的な貸付行為に当たるということになります。
さらに、貸付行為に当たるのであれば、当然「貸金業法」が適用されます。
貸金業法では「不特定多数の人に反復継続して金銭を貸し付ける場合は貸金業者に当たり、貸金業者登録が必要」と明記されています。
つまり、給与ファクタリングが貸金に当たるのであれば貸金業登録が必要であり、無登録であれば同スキームの取引そのものが違法という結論になります。
利息上限も大きく超過
仮に給与ファクタリング会社が貸金業登録をしていたとしても、手数料が金利を上回る場合には法律違反です。(出資法第5条)
つまり給与ファクタリングの手数料は年利15~20%の範囲に収まる必要があり、具体的には10万円未満の貸付では年20%、10万円~100万円までは年18%、100万円以上は年15%が上限となります。
例えば、利用金額20万円であれば年利は18%のため、30日で2,958円(1日当たり98.6円)を超えた場合は刑罰の対象です。
違法とは限らないが要注意
まとめますと、ファクタリング会社が「(1)貸金業登録をしている」「(2)法令が認める金利の範囲内での手数料設定」で営業をしているのであれば必ずしも違法とは言えません。
そのため、まず貸金業登録業者かどうかを確認する必要があります。(貸金業者は金融庁HPにて確認が可能です。)
無登録業者が給与ファクタリングを謳ってサービスの誘引を図っているのであれば、当該営業活動は違法ですので、絶対に利用しないでください。
また、仮に貸金業登録がなされていたとしても前述した利息(15~20%)を超える場合は違法な契約ですので、「給料の〇%」などと提示された場合は取引を中止しましょう。
こうしたヤミ金融業者は、高額な手数料だけではなく、あの手この手で取立てを行いますので、金銭面のみならず周囲の人まで危険にさらされる恐れがあります。
勤務先にまで取立てが及ぶ恐れがあり、最悪の場合は職場を退職せざるを得ない状況に追い込まれる可能性も否定できません。
被害を受けたらすぐに相談
新型コロナウイルスの感染拡大によって生活資金・事業資金に困窮している人が増え、ヤミ金業者による被害が増加傾向にあります。
給与ファクタリングで一時的に現金を得られたとしても、その後の取り立てや支払った手数料(金利)によって生活がさらに困窮する恐れがありますので、どうしてもお金が必要な場合は自治体や公益団体の生活費貸付制度などを活用するようにしてください。
また、給与ファクタリングに限らず、法令の上限を超えた貸金契約は無効であり、業者は登録の取り消しや業務停止命令などの行政処分をはじめ、刑事罰の対象ともなります。
ヤミ金業者は、利用者を騙す・脅すのは当たり前であり、暴力や周りへの嫌がらせなどで強制的に回収を図ることもありますので、絶対に利用してはなりません。
万が一違法業者を利用してしまった場合、もしも払い過ぎたお金があれば契約無効・不当利得返還請求などの法的措置を講じることもできるかもしれませんので、警察や弁護士に相談して対策を講じるようにしましょう。
齋藤健博先生のコメント
給料ファクタリングは、直近の最高裁判所の判例でも示されていたように法的に許容される債権譲渡を超過している可能性が高い取引内容です。今後、法人向け事業者ファクタリングにも、手が入れられていくと考えています。給与ファクタリング業者と思われる懸念が生じた場合、利息制限法違反・貸金業法違反以上の利息に関しては返還請求できる可能性が極めて高い状況にあります。