売掛金の未回収リスクと対策
企業間取引においては避けることができない掛け取引。
そのため、売掛金が回収できなかった場合のリスクや措置については日ごろからしっかりと考えておく必要があります。
また、迅速な対応は債権回収の可能性を高めますので、起こり得るトラブルを予め想定しておくことも大切です。
当ページでは「売掛金や未収金の未回収リスク」にフォーカスを当て、債務不履行時の対策や対応についてご紹介してまいります。
売掛金とは
売掛金とは、商品やサービスは提供(売上が発生している)や請求が済んでいるものの、まだ代金を回収できていない状態のことをいいます。
コンビニ・スーパーマーケット・飲食店などではその場で代金を支払うため売掛金は発生しませんが、反復継続した企業間取引では期間を定めてまとめて支払うケース(月末締め翌月15日払いなど)が多いため、このような状況が生まれます。
なお、お金を支払う側の勘定科目を「買掛金」といい、貸借対照表では売掛金は「資産の部(現金預金や土地建物などと同じ)」に計上され、買掛金は「負債の部」に計上されます。
都度現金で決済してくれるのがベストですが、スムーズに取引を進めには掛け取引は欠かせません。
売掛金をしっかりと回収することはもちろん、いつ・いくら売掛金があるのかを常に管理・把握しておく必要があります。
未回収によって起こり得ること
企業間取引では、まとまった量を継続的に仕入れる・高額になりやすいといった理由から、月末締め翌月〇日払いといったような取引(いわゆる掛け取引)が多く見られます。
お互いにとってメリットがある取引ではありますが、商品やサービスを提供した側は「役務を果たしたのに代金を貰えていない」という不安定な状況に陥ってしまいます。(売掛金を回収できなければ財務状況が悪化し、自社が予定していた支払いも滞る恐れがあるのは言うまでもありません。)
そのため、掛け取引の怖さやリスク、未回収時の対応については常にアンテナを張っておく必要があります。
掛け取引は、企業間の取引をスムーズにし後払いのために資金繰りを快適にしてくれる取引方法であることは間違いありませんが、売掛先の経営状況によって回収できなくなるリスクもはらんでいることを知っておきましょう。
売掛金に時効はある?
売掛金は言い換えれば「お金を請求できる権利」です。
法律ではこの権利のことを「債権」といい、お金を返してもらう権利・似顔絵を描いてもらう権利なども債権に当たります。
債権には時効と呼ばれる制度があり、民法上10年が経過又は知った時から5年が経過すると当該権利の行使ができなくなってしまいます。
時効は期間経過後に債務者側の援用(時効を主張すること)で成立しますが、債権者が売掛債権の請求した場合は請求した日から6か月間であれば時効を止めることも可能です。
回収が遅れている売掛債権があった場合は、時効を迎える前に適切に立ち回ることが重要と言えます。
未回収リスクへの対策
売掛金が回収できなかった場合、自社の資金繰りを悪化させるばかりか、買掛金や未払金の決済ができなくなり、他の取引先に影響を及ぼす恐れも考えられます。
これを連鎖倒産といい、手形取引が一般的であった1990年代、バブル景気の終焉によって多くの企業がドミノのように倒産してしまいました。
現代では手形取引こそ減りましたが、掛け取引は一般的に利用されているため、あらかじめ対策を練っておく必要があります。
例えば、売掛金の未回収リスクが高いと判断した場合、以下のような対策を執ることをおすすめいたします。
ファクタリングによる早期現金化
ファクタリングとは、ご存じの通り売掛債権を売買する金融取引のことです。
「ファクタリング会社に債権を売却しキャッシュフローの改善を図る」という目的で利用されるのが一般的ですが、ファクタリングの特性を活かすことでリスクヘッジとして活用することもできます。
手形取引とは異なり、ファクタリングには「譲渡人の責任(償還請求権)」がありませんので、万が一譲渡した債権が貸し倒れとなったとしても、譲渡をした人(旧債権者)が責任を負うことはありません。
そのため、あぶないと思ったら早期に現金化してしまうというのも一つの手です。
ただし、売掛先の財務状況があまりにも悪い場合、買取を断られてしまう・ファクタリング手数料が割高になってしまうといった可能性もあります。
売掛保証や保証ファクタリング
売掛保証とは、読んで字のごとく売掛債権に保証契約を附しておく方法です。
万が一、倒産や債務不履行などで売掛金の回収ができなった場合、保証会社が売掛金を立て替えて支払ってくれます。
言わば売掛金に対する掛け捨ての保険のようなものであり、回収リスクは抑えられますが、倒産せずに売掛金が支払われれば保証料は無駄になります。
なお、銀行や消費者金融では「保証ファクタリング」と呼ばれるサービスを提供しておりますが、前述した売掛保証と内容はほぼ同様です。
また、与信管理を強化するというのもリスクを引き下げる方法の一つと言えます。
完ぺきに防げる訳ではありませんが、与信管理を慎重に行うことで、危険度と高い取引を控えてリスクを抑えることが可能です。
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ファクタリングの種類売掛金の支払いが遅れた場合の対応
売掛金の支払いが遅れた場合、早急な対応が必要です。
ただし、すべての支払いの遅延が貸し倒れに繋がるわけではなく、行き過ぎた催告は後々の関係悪化に繋がる恐れも否定できませんので、慎重にアプローチしましょう。
売掛金支払いが遅れた時の対応を順序通りに説明します。
STEP-1迅速な通知・催告
支払いは故意ではなく「うっかり忘れていた」「期日を勘違いしている」という可能性もありますので、まずは丁寧にお知らせしましょう。
特に、懇意にしている一般的な取引先の場合、経営不振・予期せぬトラブルなどでない限りは入金忘れの可能性が高いです。
なお、通知や催告によって「時効が止まる」「リセットされる」というメリットもあります。
相手が債権の存在を認めた場合(一部の返済・支払猶予の依頼・減額交渉など)、時効は中断され、またゼロからスタートします。
時効を防ぐためにも、まずは少しでも支払ってもらうことが大切です。
また、後に裁判に発展する可能性も考え、電話よりもメールやチャットなど、記録に残る形でのやり取りが望ましいでしょう。
STEP-2内容証明郵便・支払督促
内容証明郵便は、送った文書の内容まで郵便局が証明してくれる郵送方法です。
同制度によって督促状を送ることで、督促をしたことの証明が残り、その後の訴訟で役立ちます。
内容証明郵便を送ってもリアクションが無い場合は「支払督促」という手もあります。
支払督促は、債務者に対し裁判所を通して督促状を送る制度です。
支払督促を受け取った債務者は「債務を認める」「債務を認めない(異議申し立て)」の2つの選択を迫られます。
債務者にプレッシャーを与えると共に強制執行(異議申し立てが行われないまま2週間が経過した場合は強制執行が可能)への第一歩を踏み出せますが、異議申し立てがなされた場合は通常裁判へと移行する点には注意せねばなりません。
STEP3少額訴訟・通常裁判
売掛金が60万円以下であれば「少額訴訟」という選択肢があります。
少額訴訟とは、1回の審理で判決が出る簡易かつスピーディーな訴訟で、弁護士を通さずにご自身で進められる方も多い手続きです。
もちろん、知識や自信がない・手間をかけられないなどの場合は、無理をせず弁護士や司法書士に相談しましょう。
60万円以上の売掛金の場合は通常裁判を利用することになり、140万円以下の場合には簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所が管轄です。
訴状や証拠書類の準備などの専門知識が必要となるため、基本的には弁護士又は認定司法書士に依頼することをおすすめします。
一回で終わる少額訴訟に比べると裁判期間も長くなりますので、相応の覚悟が必要です。
リスクを回避することが大切
当ページでは売掛金が回収できなかった際に起こり得るリスクや対処方法についてお伝えしてきました。
小さな企業であればあるほど1件当たりの未回収が及ぼす影響は大きく、リスクヘッジ・未回収時の早急な対処はより重要となります。
適切な与信管理や対応をはじめ、ファクタリングや保証システム等を上手に活用し、未回収リスクをできるだけ抑えるように努めましょう。
売掛金の正しい管理方法
ビジネスでは、入金されてはじめて手元にお金が残ります。
そのため、売上だけではなく「売掛金を管理すること」「残高や入金時期をしっかりと把握すること」も利益に直結する大切なお仕事です。
ここでは売掛残高の確認・管理方法、残高が合わない場合の措置等をまとめましたので、経営にお役に立てばうれしく思います。
売掛金を正確に把握するには
まず、掛け取引がある顧客の名や住所・所在地、経理担当者など、取引に関わるデータをあらかじめ登録しておきましょう。
登録が済みましたら、次は締め日・請求スパンの確認です。
取引先ごとに請求の締め日が異なります(A社は毎月15日が締め日、B社は月末など)ので、混乱を避けるためにもしっかりと把握しておくようにしてください。
また、締め日によって請求書の内容が異なる点に注意が必要です。(例えば15日締めなら前月16日から今月15日までの請求、月末締めであれば前月分を集計)
「売掛金を残高として計上→その後入金があれば消し込み作業」という形で管理しますので、計上するタイミングもあらかじめ決めておくと混乱が生じ辛いでしょう。(納品書を送付したタイミング・請求書を発行したタイミングなど)
きちんと管理していれば、万が一売掛金が約束通りに支払われなかった場合はその旨をすぐに知ることができ、早急な対応にも繋がります。
なお、双方がお互いの残高を確認するために、定期的に売掛残高確認書を送付又は請求書に残高を記載している企業もあります。
残高が合わない場合の対処法
入金予定日までに正確に入金されていれば売掛金の残高が合わなくなることはありませんが、予期せぬ形で差異が生じる可能性があります。
例えば、消費税の処理の違いは差異が生じる代表的な例です。
消費税の処理は統一された決まりがありませんので「自社では消費税の端数を四捨五入しているが、取引先が切り捨てで処理している」などの場合、1円の誤差が生じますので注意せねばなりません。(売掛金の残高は10,000円なのに実際の入金は9,999円だった等)
また、計上・消込み時のミスも残高が合わなくなる原因の1つです。
うっかり記入を間違えてしまうと実際の額と帳簿の額に差異が出てしまいますので、単純な金額間違いの場合は逆仕訳で正しい数値に直しましょう。
なお、売掛金は請求書ごとに振り込まれてくるわけではなく、締め日にまとめて入金されるケースも多いため、どの請求書の入金なのかをしっかりと確かめた上で消込作業をしないと誤差が生じます。
必ず支払明細書の内訳を確認しながら処理するようにしてください。
売掛残高一覧表での管理
締め日は企業によって異なる(月末・25日・15日など)ため、売掛金の残高がずれてしまう場合があります。
そのため、最近では視覚的にもわかりやすい「管理システム」「管理ソフト」を導入する企業が多くなっており、売掛金の残高一覧表も簡単に作成できるようになりました。(会計ソフトに機能が付いているケースもあります。)
売掛金残高一覧表は、取引先別に前月の売掛金残高、当月の売掛金発生額が表示され、売掛先ごとにどれだけ売掛金が残っているのかを正確に把握できます。
また、多くのソフトでは指定した月ごとに請求先の売掛金を確認できるようになっており、ワンクリックで確認・集計が可能です。
ヒューマンエラーを極力無くすためにも、これらのツールの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
適切な管理が未回収リスクを減らす
売掛金の入金が予定通りに進まないと、他の支払いに間に合わない、スタッフへの給与の支払いが遅延、税金滞納など様々な悪影響を及ぼす恐れがあります。
売掛金の入金が遅れた場合はスピーディーな対処が重要ですので、早急に対応するためにも売掛金の残高はこまめにチェックしましょう。
また、売掛金残高一覧表を作成しておけば、ついつい見逃しがちな「いつもは遅れがない取引先からの入金遅れ」にもすぐに気づくことができます。
地道ではありますが、適切な管理・把握が売掛金の未回収リスクを減らす第一歩です。
売掛金がマイナスになる原因と対処方法
売掛金は掛取引の時に使われる勘定科目(資産)であり、将来支払いを受ける権利を意味しているため、全て回収したとしてもマイナスになることはありません。
売掛金がマイナスとなってしまった場合は会計処理のどこかでミスが生じていますので、早急に正しい措置を講じましょう。
マイナスとなってしまう原因と対処法をご紹介しますので、ご興味のある方は是非チェックしてみてください。
マイナスになる6つの原因
売掛金残高がマイナスになってしまった場合は「計算ミス」「売上の計上漏れ」「記帳漏れ」「回収漏れ」「過入金がある」「前受金がある」のいずれかの可能性があります。
次項ではさらに内容を詳しく解説いたしますので、まずは原因を特定し、ミスの解消に努めましょう。
CAUSE-1計算ミスよるマイナス
まず疑うべきなのが計算や入力のミスです。
もしも売掛金がマイナスになってしまった場合は、通帳の預金残高と帳簿を照らし合わせ、計算ミスがないかを改めて確認してみてください。
数円から数十円の差異であれば消費税の端数処理を間違えている可能性が高いため、請求書作成時に正しい処理がなされているか(端数の切り上げ、切り捨て、四捨五入が正しく行われているか、都度計算するのか又はまとめて計算するのか等)を確認してみてください。
CAUSE-2売上の計上漏れ
レジが複数ある、伝票ごとに手動入力している、売上をそれぞれの担当者が入力している等の場合、入力ミスや漏れによって売上計上がなされていないことがあります。
そうなると「売上と売掛金」の計上がないまま売掛金の消込作業がなされてしまい、残高がマイナスになってしまいます。
この場合は売掛金残高と入金額が合わないはずなので、売上の計上漏れが無いかを確認してください。
CAUSE-3記帳のミス
仕訳や記帳のミス、勘定科目の間違いも考えられます。
例えば、貸方と借方を逆にして記載(借方に計上すべき売掛金を貸方に計上)してしまう等の処理がなされた場合、マイナス残高になる可能性があります。
初歩的なミスではありますが、仕訳処理に誤りが無いか・通帳残高や帳簿を比べてミスや漏れがないか等を調べてみてください。
CAUSE-4回収漏れ
売掛金が請求書又は取引単位で振り込まれてくるとは限りません。
企業間取引では「まとめて入金される」「一部が入金される」等のケースも多く、売掛金額と入金額が一時的に一致しないことがあります。
また、立替払いや振込手数料の負担などがあった場合、売掛金がマイナスで計上されてしまうことがありますので、消し込み処理をする際に「同支払いがいつ・どの取引に対する支払いなのか」も併せて確認するようにしましょう。
CAUSE-5過入金がある
売掛金がマイナスになる原因が自社にあるとは限りません。
自社の会計処理に間違いがなく適正な場合には、取引先が売掛金に対して過剰に入金している可能性があります。
過剰に入金されていた場合は、取引先に連絡をし、返金にするか・他の取引に持ち越すかをすり合わせましょう。
超過分は他の取引と相殺するのであれば前受金として処理し、返金処理する場合には仮受金として処理するのが一般的です。
CAUSE-6前受金がある
売上が計上されていないのに先んじて入金(前受金)があった場合、処理を誤ると売掛金がマイナスになることがあります。
前受金は通常「借方:現金預金」「貸方:前受金」と仕訳し、売上が発生したタイミングで前受金勘定を反対仕訳で消しますが、誤って「借方:現金預金」「貸方:売掛金」等で処理をしてしまうと、売掛金勘定が減ってしまいます。
特に、売上を計上するまでに時間がかかる場合や決算月をまたぐ場合には、売掛金がマイナスにならないように前受金の科目で処理してください。
正しい処理であれば差異は生じませんので、誤った処理をしてしまった場合はすぐに修正するようにしましょう。
仕訳ミス時の修正仕訳
仕訳ミスがあった場合は、別途修正のための仕訳をする必要があります。
修正仕訳は「(1)間違った仕訳を反対仕訳で相殺」「(2)その後正しく仕訳しなおす」という流れが一般的です。
反対仕訳とは元々の仕訳と逆にした仕訳のことで、借方に計上した科目を貸方に、貸方に計上した科目を借方に、それぞれ同額で計上することで数字が相殺されます。
修正仕訳の例を以下の通りご紹介いたしますので、こちらもご参考ください。
現金売上の仕訳修正
「100,000円を現金で売り上げた際、誤って貸方に売掛金を計上してしまった。」というケースでの修正例は以下の通りです。
誤った仕訳
借方 | 貸方 |
---|---|
現金預金 100,000 |
売掛金 100,000 |
本来の仕訳
借方 | 貸方 |
---|---|
現金預金 100,000 |
売上 100,000 |
修正仕訳
借方 | 貸方 |
---|---|
売掛金 100,000 |
現金預金 100,000 |
現金預金 100,000 |
売上 100,000 |
難しく考える必要はなく、まずは「誤った仕訳と逆の仕訳」をし、次に「本来の仕訳」をするだけでOKです。
売掛金が合わない原因を特定できたら、落ち着いて修正しましょう。
売掛金のマイナスを防ぐ管理方法
売掛金残高がマイナスになってしまう原因の多くは単純なミスや管理不足です。
入金スケジュールや回収期限を把握するためにも「売掛金残高管理」は非常に重要な役割を果たしますので、慎重に管理しましょう。
「(1)売掛金に関わる情報は全て記録する」「(2)納品書もしくは請求書を送った時点で売掛金を計上する」「(3)売掛残高一覧表を作成する」等をしておくと、ミスを減らすことができる上に管理もしやすくなります。
特に、取引先によって売掛残高・発生額・入金額・締め日や入金日が異なるため、適切に管理するためにも売掛残高一覧は必ず作成するようにしてください。
売掛残高一覧表は一般的な会計ソフトには予め入っておりますが、エクセルでも問題ありません。(未回収だけを抽出できるようにしておくと、どの取引先のどの売掛金が残っているのかすぐに把握できるので、回収業務に役立ちます。)
また、定期的に売掛残高確認書を送付し、お互いの残高を確認するというのも、お互いの認識のずれを防ぐためにオススメの手段です。(自社の売掛金と取引先の買掛金は一致するため)
早急な対応と適切な管理が重要
売掛金のマイナス、計上間違いは資金繰りにも影響します。
ミスが原因で入金が遅れていることに気が付かないと、予定していた資金が手元に入らず、予期せぬ形でキャッシュフローが停滞してしまう恐れもありますのでご注意ください。
定期的な管理をはじめ、売掛金のマイナスにすぐに気が付けるよう売掛残高一覧表や売掛残高計算書といったツールの活用もご検討ください。