ベンチャー企業は革新的なアイディアや独自技術を武器にして、新しいサービスを生み出す企業です。
最先端技術や今まで見たことがないビジネスモデルによって、市場に変革をもたらします。今回はベンチャー企業の資金調達方法についてまとめました。
ベンチャー企業は成長フェーズに合った資金調達方法を選ぶ
ベンチャー企業は、新しいビジネスを展開するという特性上、適した資金調達も一般的な企業とは異なります。
新しい市場を開拓する関係からスタートアップ時は赤字になることも多く、銀行融資は審査が通らないこともあります。
一方で、アイディア次第では急成長の可能性があることから、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルにとっては格好の投資先となります。
変化が大きいベンチャー企業は、成長の段階を考慮した資金調達方法の選定が必要になります。
自社がどの成長段階にあるかを踏まえ、しっかりと資金調達方法を検討しましょう。
ベンチャー企業の事業ステージに応じた資金調達方法
ベンチャー企業は、事業ステージによって調達できる資金の額も違います。
投資家が企業に投資をするときの基準となるのがラウンドです。ラウンドごとの調達額の相場は以下の通りです。
ラウンド | 調達額の相場 |
---|---|
シードラウンド | 1,000万円~2,000万円 |
アーリーラウンド | 2,000万円~5,000万円 |
シリーズAラウンド | 2~3億円 |
シリーズBラウンド | 4~5億円 |
シリーズCラウンド | 5~8億円 |
シリーズDラウンド | 10~20億 |
シードラウンド
シードは「種」を意味する言葉で、ラウンドの第一段階にあたります。まだ、芽が出るまでの種の状態で、創業に至っていない準備段階です。
シードラウンドで資金調達する目的は商品やサービスのリリースです。そのため、大きな資金は必要ないケースもあります。
しかし、市場調査や創業費用、人件費といったコストは最低限発生します。
シードラウンドの資金調達の相場は、1,000万円から2,000万円程度。
事業によって金額が変わります。
シードラウンドはまだ事業を展開しておらず、民間銀行からの融資は受けにくい時期のため、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルといったアイデアやビジョンに投資してくれる資金調達方法がおすすめです。
エンジェル投資家は、実績がない企業であっても、有望と感じればサポートしてくれる可能性が高いでしょう。
賛同者を集めやすいビジネスであればクラウドファンディングにも一考の価値があります。
また日本政策金融公庫の新創業制度融資、地域中小企業応援ファンド(スタート・アップ応援型)、地域創造的起業補助金も条件によって利用可能です。
アーリーラウンド
アーリーラウンドは、起業した直後の時期で、スタートアップと呼ぶこともあります。
アーリーラウンドは実際にビジネスに着手しつつも、安定した利益が困難な時期。必要な運転資金や設備資金等で赤字経営になることも多いでしょう。
アーリーラウンドの資金調達の相場は2,000万円から5,000万円。顧客や売上が増えていく時期ですが、マーケティングコストや研究開発コストの影響が大きいため、事業を継続させるための資金が必要になっていきます。
アーリーラウンドは継続して利益が出ているわけではないので、民間銀行からの融資は困難です。
事業を開始したばかりでもサポートしてくれるエンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの資金調達を目指しましょう。
ベンチャーキャピタルからから出資を受けるだけでなく、事業提携先を紹介してもらうといったサポートを受けられれば事業安定化にも役立ちます。
また事業安定化のために小規模事業者持続化補助金も利用できます。人件費を確保するためには、はキャリアアップ助成金の活用も視野に入れましょう。
シリーズAラウンド
シリーズAラウンドは、「Product Market Fit」を達成している段階とよく言われます。
「Product Market Fit」とは、企業が提供しているモノやサービスが、市場で支持されるようになった状態です。
それ以降は顧客を獲得するためにかかるコストよりも、得られる収入のほうが多い「Unit Economics」を達成することを目指します。
シリーズAラウンドの資金調達の目安は、数千万円から2億円程度。
売上を伸ばすための設備投資や優秀な人材確保が求められ、資金難になることもあります。
大きな資金調達が必要になってくるシリーズAラウンドは、株式の発行等の増資が適しています。
投資家に対して有利な種類株式を発行して、投資メリットを拡大する手法はよく採用されています。
引き続きエンジェル投資家やベンチャーキャピタル側から、積極的に出資を打診されることも増えるかもしれません。
シリーズBラウンド
シリーズBラウンドは、経営基盤の安定から長期的なビジョンでの資金調達にシフトする時期です。
シリーズAまでは安定させることが目的の資金調達でしたが、シリーズBラウンドからは規模の拡大や株式上場を見据えた資金調達になります。
シリーズBラウンドの資金調達の目安は、4億~5億円。
金額も大きくなるので、複数のベンチャーキャピタルから出資を受けたり、金融機関からの融資が視野に入ります。
補助金や助成金も条件を満たしたものを活用しながら、ビジネス拡大を目指します。
信用力が高まって資金調達の選択肢も広がる時期なので、時間がかかったとしてもリスクや経営への影響の考慮が必要です。
シリーズCラウンド
シリーズCラウンドは、株式公開による資金調達も可能になる時期です。
会社の規模拡大、多角化のためにM&Aのような企業再編のタイミングでもあります。
シリーズCラウンドの資金調達額の目安は、5億~8億円。
金融機関からの融資のほか、株式公開や新株発行といった多様な選択肢から自社のニーズに合った方法を選びます。
金融機関からの融資も、複数の金融機関から融資を受けるシンジケートローンに変化するかもしれません。
この時期は短時間でより効率的に資金を調達して、経営に生かすことが求められます。
シリーズDラウンド
シリーズDラウンドは、シリーズCラウンドと同様にレイターに分類される時期です。
株式公開やM&Aを実施して、企業の規模はさらに大きくなります。
ベンチャーキャピタルと契約している場合には、新規株式公開でEXITに進むこともあります。
ベンチャー卒業が近い時期でもあり、シリーズDの資金調達額の相場は数十億円にのぼることもあります。
企業再編の結果、経営権が移り変わることもあるので、資金調達手段が経営に大きく影響します。
事業は黒字化しているため、民間銀行からの融資は受けやすくなりますが、短時間で大きな資金が必要になってくる時期です。
短期的に必要な資金と長期的に投資するための資金を分けて資金調達を考えましょう。
ベンチャー企業の資金調達事例【2021年版】
ベンチャー企業の成長は、資金調達とともにあります。今成長した企業ももともとは資金調達で悩んでいたでしょう。
どのように資金調達してきたのか、事例をご紹介します。
株式会社SPICY【シードラウンド】
株式会社SPICYが提供する「クラスメイト(Classmate)」は、大人のカルチャースクールとして、インターネット上で知識や知恵を得られるプラットフォームです。
大人の新しい趣味の形として注目を集め、現在は会話を楽しむ場所、趣味に打ち込める居場所として受け入れられています。
株式会社SPICYは、2021年に独立系ベンチャーキャピタルANRIをリード投資家として、サムライインキュベート、その他、国内外の個人投資家から総額約1億100万円の資金調達をおこないました。
調達資金はエンジニアやマーケティングの人材採用やコースの拡充に充てられています。
参照:令和時代のカルチャースクール「Classmate|クラスメイト(9月公開)」シードラウンドで1億100万円の資金調達を実施│PR TIMES
株式会社唐沢農機サービス【アーリーラウンド】
株式会社唐沢農機サービスは農機具流通プラットフォーム「ノウキナビ」を運営しています。
株式会社唐沢農機サービスが目指すのは、IT×リアル機能の拡充です。
ノウナキビは、全国にある農機販売業者の取引支援と、農機ユーザーとのマッチング、修理・買取・部品調達・運送等といったサポートを実施。
ノウナキビの年間のアクセス数は300万PV超、参画している農機販売店は300軒を越えました。
株式会社唐沢農機サービスは八十二銀行と八十二キャピタル株式会社、さらに群馬銀行、SMBCグループの複数の金融機関から、第三者割当増資、融資契約を含む1.9億円の資金調達を実施しました。
この資金は人件費と広告宣伝費に充て、スタッフ拡充と、デジタルマーケティングに集中的に投下する予定です。
参照:株式会社唐沢農機サービス 1.9億円の資金調達を実施│PR TIMES
MedUp【シリーズAラウンド】
メダップ株式会社は、中・大病院向けの地域連携プラットフォームツール「foro CRM」を提供している会社です。
持続可能な医療を実現するために医療機関同士や介護施設等との連携の重要性は高まっている中で、foro CRMはデータを一元管理して、組織同士の連携、意思疎通を可能にするツールとしてリリースされました。
メダップ株式会社は、東京とシリコンバレーに拠点を構える日米ベンチャーキャピタルのDNX Ventures、SaaS (Software as a Service)に特化したALL STAR SAAS FUND、ITテクノロジーや、独自のビジネスモデルを有するスタートアップに投資するモバイル・インターネットキャピタルを引受先とした第三者割当増資を実施しました。
総額6億円の資金調達によって、市場拡大と開発体制の強化を目指しています。
参照:“病院経営の非効率”をデータドリブンで解決する「MedUp」、シリーズAで6億円の資金調達を実施│PR TIMES
キャディ【シリーズBラウンド】
キャディ株式会社は「CADDi(キャディ)」という製造業の受発注プラットフォームを運営する企業です。2030年までに1兆円規模のグローバルプラットフォームとなることを目指しています。
キャディ株式会社は、海外ベンチャーキャピタルDST Global、Arena Holdings、Minerva Growth Partners、Tybourne Capital Managementのほか、ジャフコグループとSBIインベストメントから総額80.3億円の出資を受けています。
調達資金は人材採用やCADDiの開発、そして新規事業に投資する予定とのことです。
参照:キャディ、総額80.3億円のシリーズB資金調達を実施│PR TIMES
チャネルトーク【シリーズCラウンド】
株式会社Channel Corporationは、All-in-one接客チャット「チャネルトーク」を運営する企業です。
2021年世界最大規模のシンガポール政府系投資会社Temasek Holdings傘下の投資運用会社 Pavilion Capital 等を引き受け先として、シリーズCラウンドで約28億円の資金調達をおこないました。
調達した資金はチャットと顧客管理機能(CRM)の一体化や、他コミュニケーションチャネルとのやりとりの一元化機能といったプロダクト開発に使う予定です。
参照:All-in-one接客チャットの「チャネルトーク」が28億円のシリーズC資金調達を実施│PR TIMES
SmartHR【シリーズDラウンド】
株式会社SmartHRは、人事・労務分野の業務効率化による生産性向上を目指して、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を提供している会社です。
サンフランシスコを拠点とする数千億円規模の投資ファンドLight Street Capitalをリード投資家として、既存株主と新規投資家を引受先とした第三者割当増資・新株予約権付社債を実施し、シリーズDラウンドで156億円の資金調達を行いました。
調達した資金は人材基盤の形成のほか、サービス認知の向上を目指した広告展開、カンファレンス開催といった幅広いマーケティング活動に使われます。
参照:クラウド人事労務ソフトを提供するSmartHR、約156億円のシリーズD資金調達を実施│SmartHR
ベンチャー企業の資金調達における注意点
上記事例の通り、大規模な資金調達が実施できれば、事業拡大に大きく期待できます。ただし、ベンチャー企業の資金調達には注意すべき点もあります。
出資を受ける場合経営に介入される可能性がある
創業期の資金調達のために株を放出しすぎると、自社の持ち株が減ってしまいます。
株式数によってはエンジェル投資家やベンチャーキャピタルに経営権を握られてしまう可能性もあるため注意が必要です。
経営に参与されることによって会社の経営方針に影響がおよび、場合によっては意見が対立して経営が分割される可能性もあります。株式の発行部数を調整して、自社に不利な資金調達にならないようにコントロールしてください。
事業計画に合わせた資金調達計画が必要
資金調達計画は必ず事業計画に合わせておこないます。
資金があればあるほど良いと考えて資金調達してしまえば、経営権の喪失や事業で大きな損害を出してしまうリスクが高まるためです。
必ず事業計画を立てるとともに、成長ステージにあわせてどのような資金調達をおこなうのか考えておきましょう。
契約内容は弁護士に確認をとる
エンジェル投資家やベンチャーキャピタルから出資を受ける場合、投資契約書を締結します。会社の経営にも関わる重要な契約書なので、必ず企業法務に強い弁護士からレビューを受けてください。
出資者が出資先の企業に株の買取を請求できる株式買取請求権について記載されていたり、ベンチャー企業に対して不当な要求をしていたりするケースもあります。
法的知識が少なく受け入れてしまったり、出資引き上げを恐れて不利な要求をのまされたりすることがないよう対策が必要です。
ベンチャー企業はラウンドにあった資金調達を
資金調達はベンチャー企業が大きく成長するために必ず必要になります。
しかし、資金を得るということは、果たさなければならない義務や差し出すものがあること理解しましょう。
どの成長段階でどれだけの資金調達を受けるかによって、経営や事業展開の難易度は大きく変わります。
自社に適した資金調達手段や資金調達相手を見定めるようにしてください。